んだんだ劇場2011年8月号 vol.151

No62−ゼイニクを落としたい−

ほぼ限界の仕事量

7月9日(土) 土曜日だが朝から動き回って落ち着かない。山がない土曜日は雑用三昧。雑用も嫌いではないのだが、それにしてもなあ、還暦を過ぎたオヤジがどうしてこうも忙しく働かなければならんのか。好きでやっていることとはいえ、時には納得がいかず、勝手に落ち込んだりする。午後からは友人の誘いで「陶芸教室」の見学。公共のカルチャースクールのせいか、教室のきれいさにまずびっくり。陶芸って泥だらけの汚い所でやるものだという先入観があったから、びっくり。先週から仕事は一挙に混みだした。そんなときに限って運悪く印刷所のオヤジが検査入院。暗澹たる気持ちになったが、念のため、件の印刷オヤジの症状を聞こうと会社に電話すると、何と本人が電話に出るではないか、土曜なのに。退院後、ただちに出社に及んだとのこと。いやはや、いずこもよく働く。でも大病でなくて、よかったね。

7月10日(日) 森吉山登山。友人と2人の気楽な花見物。もう20種類以上の花の名前を覚えたので、ちょっぴり「やみつき」状態。ロープウエイでスキー場まで行き、そこからのんびり山頂までお散歩。山頂は観光客で満杯、昼飯はそこから下り、山人平のお花畑でゆっくりと。来週の鳥海山登山(小生クラスの初心者には最高難易度の山)の訓練の意味もありザックも靴も高山用のものを持っていった。これが後に思わぬ失態を招くことになる。朝は曇り空でガスっていたが、午後からは快晴。実はあまり好きな山ではなかったのだが今回ですっかり好きになった。花の名前に敏感になったからだろう。以前は花に興味がなかったから、山の魅力がわからなかっただけ。後日、同じ日同じ時刻に山頂にいたという友人に、「クマにあったでしょ」と言われた。どうやらクマが出没していたらしい。

7月11日(月) 朝から好天。いま昼だが眠い。実は昨日、山頂付近で車のキーをなくしてしまった。新しいザックのポケットの構造がわからず、ザックを横にしたとき、キーがこぼれおちたようだ。友人と二人で内陸線、奥羽線を乗り継ぎ、どうにか帰ってきたのだが、山歩きの一番の楽しみである温泉とビールはオアズケ。悔しい。そして今朝は五時起き。友人の好意で彼の車に分乗し再び森吉へ。合鍵を持って車をとって帰ってきたのだ。朝9時に来客の予定があり、どうやらぎりぎりでセーフ。数分遅れだったが間に合った。というわけで、眠い。でも仕事はぎっしり詰まっている。

7月12日(火) 日曜日の「森吉山車キー紛失事件」の続報。そんなわけで月曜早朝にスペアーキーで車を持ち帰ってきたのですが、車を出してくれた友人はそのまま2日連続で森吉登山。週日にもかかわらず山は人でいっぱいだったそうです。さすが日本の花百名山。そして前日、昼食を取った場所を念のため探したら、なんと小生の車キーはそのまま残っていたそうです。いやぁ、うれしい。やはり新しいザックから昼食のときこぼれおちてしまっていたようだ。今度奥さんともどもメシおごります。スペアーをつくる2万円が浮いただけでなく後味の悪さまで払しょくできました。メシぐらい安いもんです。

7月13日(水) 本に鉛筆で下線を引くクセがある。消しゴムで消える鉛筆を使うのは読み終わった後「古本屋に売るつもり」だったから。古本屋に売らなくなった今も本と一緒に鉛筆は持ち歩く。が、なくすし忘れるし邪魔くさい。最近クリップペンシンという優れモノを発見、一挙に悩みは解消した。薄い安い小さいの3拍子揃った1本7円の使い捨てペンを、200本大人買い。「それってゴルファーがスコア―付けるときのペンでしょ」と友人に言われたが、そうなの? ゴルフをしたことがないので知らない。

7月14日(木) 今週に入ってずっと暑い日が続いている。西日対策はどうにか新窓設置で功を奏しているから、あとはこまめに水分補給。汗っかきなので特に山登りの最中は身体の水分をダダ漏れさせている。塩熱飴をなめながら2リットル近くの水を摂るのだから、すごいでしょ。さらに脱水症状の予感があれば最近は即OS−1(オーエスワン)という経口補水液のお世話になる。病院などで使うものだが、ツルハあたりでも市販している。ボトル1本200円、身近にこれがあると何となく安心。味はほのかに甘しょっぱい水。でもスポーツドリンクほどきつくない。夏はこれ1本!

7月15日(金) ようやく週末までたどり着いた。長かったなあ。週初めの森吉山カギ紛失騒動からはじまり、毎日のように来客打ち合わせ、ゲラの入稿や校了が続いた。いま進行中の本は15本! ほぼ力量の限界点だ。毎日打ち合わせ予定があった週というのも珍しい。こんなときに限って原稿〆切(書評や新聞コラム)も重なる。忙しついでにこれらも片付けてしまった。勢いあるなあ、ジブン。明日、1年で最も大きな山行・鳥海山登山がある。精神的負担になる雑事(?)はかたをつけてから登りたいのだ。


ようやく鳥海山

7月17日(日)秋田でひっそりと山歩きする身には、一大イベントといっていい鳥海山祓川・康新道ルートを土曜日登ってきた。青息吐息で山頂に立つことができたが、下りは古傷の右足くるぶしが痛み出し、一人遅れ、みんなに迷惑をかけてしまった。まだ自分の実力では鳥海山は敷居が高いのかも。帰りの車中で山行の印象を訊くと、そろって「大満足だけど、二度と行きたくない」って、みんな正直だなあ。これで今年の夏の最大のイベントも終った。この暑さなので、もう当分山歩きは無理。低山歩きなので、これもやむを得ない。

7月18日(月) 鳥海山に登った翌日はあわただしく山形へ。1泊2日の出張旅行。2つの用事をこなしてきた。帰りの車中、酒田側から鳥海山を眺めながら一昨日のささやかな登頂の達成感をずっと反芻していた。いまだ首裏が日焼けでヒリヒリするのも、あの山のせいだ。秋田側からみるのとちがい雪渓が小さいのは南に面しているからだろうか。今日はこれから「山の学校」の行事で「ホタル鑑賞会」。少し忙しぶっているので、火照った「心身」を暗闇の中に身を置いてクールダウンしてくるつもり。今週は3冊の新刊がまとめて出来てくる、やっかいな週。

7月19日(火) 昨夜のホタル観賞会は楽しかった。といってもホタルが沢山見られたからではない。ホタルは少なかったが、夜の闇の中を歩いていると、いろんな発見があったからだ。星のこともずいぶん覚えた。北斗七星のひしゃくの端っこを伸ばしていくと北極星があり、そのまた横にカシオペアが……といった耳学問を実際に確かめることが出来た。暗闇って、とにかく動物の匂いがして生温かい感触がある。

7月20日(水) 今日から熱い暑い1週間がはじまる。新刊が3冊できてきて夜の飲食が3回、週末の山行が暑さでひとまず延期されたのだけが救いだ。体調を崩すのが一番心配なのだが、こんなときに限って飲食の機会が多くなるのは、どうしたことか。さらに今すぐに読みたい何冊かの新刊が枕元に置いてある。この誘惑に打ち勝ってちゃんと睡眠時間を確保できるのか、それも自信がない。8月刊行目指して書き継いでいる『ババヘラの研究』という自分の本の大幅な書き直しも今月中に仕上げなければならない。孤立無援、四面楚歌なんて気取ってもしょうがない。なるようになれ。

7月21日(木) 暑中お見舞い申し上げます。今日はその暑さにちなんだ「ご自慢の1品」を紹介します。これは夫を誉めたことのないカミさんに「よくやった!」と手放しで誉めてもらったアイスキャンデー「クリーム仕立てのミルクバー」(森永)105円。香料が入っていない昔のミルクキャンデーの中に上品な練乳ソースが入っている。くどい甘さがなくて絶品のうまさ。どこのコンビニでもあるわけではないんで根気強く店を探す必要がある。小生はその店を発見、常に在庫を切らさないよう店員を「指導」している。切らすとカミさんに怒られるからだ。昨日は「森吉カギ事件」で助けてもらった友人夫妻を招待し焼肉店へ。

7月21日(金) 歌手らしき芸能人が結婚披露宴で新婦に「地球の裏側の人を思いやれる人になろうね」と訳のわからないコメントをしていた。自分のいる場所が「表」でそれ以外は「裏」と思っている心根がそもそも「思いやり」を決定的に欠いている。海水浴場でバーベキュー、熱中症になった、という若い女性と遭遇した。彼女はいま話題になっている熱中症のニュースや警告など関心外だったのだろう。若さとはなんと無残でバカなのか。でも40年前の自分もこのバカたちと同じだった、と気がついて、うなだれるしかない。

7月22日(土) 真夏のクソ忙しさは8月前半まで確実に続きそうだ。昨日は前半の小さな山を越し一息。夜は気分を替え、夏目漱石『三四郎』を読む。ところが冒頭、汽車で上京するシーンで三四郎は弁当やゴミを2度も窓からポイ捨てする。本題とは何の関係もない場面だが、そのあまりのさりげなさに、今の子供たちが読んだらどう思うだろう……と埒もない横道に迷い込んでしまった。けっきょくそのせいで物語に入って行けず、今夜再チャレンジする予定。古典ってこんな楽しみ方もあるんですね。


身辺のぜい肉をこそげ落としたい

7月22日(土) 街を歩いていると色とりどりのハイブリッド車プリウスが目立つ。小生も5年ほど前、ホンダのハイブリッド車に乗っていたのだが、それはともかく、秋田の人々の高い環境エコ意識は慶賀にたえない、と思っていたら車のディーラーによると、ほとんどが「油代のランニングコストで選んだだけ」とのこと。ちょっとショックだ。ガソリン代が得という理由が圧倒的なのだそうだ。ま、それもいいだろう。ドイツの個人自家発電が盛んなのは政府が電気を全量買い上げてくれるからだ。高邁な理念がなくても、いいんだよね。

7月23日(日) 日曜日だけど仕事。暑さのため山遊びは休業中。そのためこんなことになる。義務のように週末山に行くのは、仕事から自分を引きはがすため。山はダメだけど、川遊びは魅力だ。これからは川でいくか。実はこんど友人に川に連れて行ってもらう予定なのだが、山以上にクマの恐怖があるそうだ。4人ぐらいで行くのがベストかな。釣りもやってみたい、といったら「素人には無理」とたしなめられた。とにかく今日は仕事。来週もなんやかや「シバリ」がかかって自由気ままとはいかない日々が続く。

7月24日(月) 毎日のように地震。いろんなことを考え、夢を見ても地震のたびに虚無感に引き戻されてしまうのが、つらい。これが後遺症なのだろう。でも3.11の震災以前から地震には敏感で、家族には「過剰反応」と笑われてきた。グラッとくると身体のセンサーがものすごい勢いで最悪の事態を想定した反応と混乱を同時に引き起こしてしまう。どんなに小さな地震でもセンサーは同じように作動する。震度1でも何度も続くとヘトヘト。今日の夜中の地震もダメ、すっかり目が覚めてしまった。

7月25日(火) 数年前に比べて自分の仕事場から出るゴミの量が2,3倍に増えている。仕事場で「生活している」からだ。前は飲食や雑用事は外や家ですることが多かったが、最近はたいていのことは仕事場で済ませる。これってどうなんだろう。仕事場がどんどん生活の場に近づいて、しまいには仕事なのか生活なのか自分でもわからなくなる……って、ある種の仕事上の理想なのかも。それにしても1日に2回もゴミを出す日常は問題だなあ。

7月26日(水) 去年の秋、1ドル87円前後の時に急に高くなったドルをトラベラーズチェックで買い、その使い残しが1500ドルほどある。77円の今、もう永久に換金は無理かも、と絶望的な気持ちになるが、個人的に円高は悪いことばかりではない、と思っている。ノルウェイのテロ犯人が銃を構えてポーズを決めていた写真で着ていた「スキンズ」というスポーツウエアーは、山でいつも小生が着ているもの。複雑な心境だ。そういえば北欧の会社の製品だったな。今週の「週刊ニュース・1本勝負」は「ヤノマミ」というアマゾン・インディオの本を取り上げたのだが、うかつにも「ヤマノミ」と誤植。その間違いをいち早くメールで指摘してくれたのは、なんと同じアマゾンに住む日系人のTさん。地球の反対側から恐縮です。いやはや周辺がなんとも国際的で、秋田にいても退屈しないッス。

7月27日(木) 山頂で友人がマシュマロをとりだし木の枝にさしてガスコンロで焼いた。ごげ目のついたマシュマロの上にさらにチョコレートをのせ食べはじめた。アメリカではバーベキュ―の定番だ、とアメリカ生活の長い友人はこともなげに言った。悪い冗談だと思った。後日、若い女性たちにこの件を話したら「私たちもよくやります」と鼻であしらわれた。えッホントなの、知らなかったのオレだけ。焼いたマシュマロは確かに綿菓子のような舌触りで、まずくはなかった……いや、これって悪夢だろ。オレ、みんなと違う世界に生きてきたわけ60年間も。

7月28日(金) エコとも節電ともまったく関係ないのだが、今年に入って事務所の蛍光灯を3分の一に減らし、2階を断熱窓に替え、冷蔵庫を小さくした。今年5,6,7月の電気代と去年の同じ時期を比べたら、なんと3分の一に減った。何度も言うがエコにも節電にも興味はない。身辺のムダをそぎ落としたい欲求が年と共に強くなっているだけ。今年後半は資料庫を何もない畳だけの「瞑想部屋」に替える予定だ(小料理屋風小上がりをつくるつもりだろうと邪智する人もいる)。とにかく何もないシンプルな状態に憧れる。


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