んだんだ劇場2008年10月号 vol.118
No52
再び「動物は学習する」

西瓜がなくなったら……
 前回、西瓜にネットをかぶせても、やはり動物にやられた、という話を書いた。ところがその2週間後、房総半島、千葉県いすみ市の家に帰ったら、畑のウリ類に、やはり赤いネットがかけてあった。

ネットがかけてあったウリ類
 「西瓜を全部収穫したら、動物が来なくなった」と、父親は言う。
 「西瓜に比べると、ウリ類は、あまり甘くないからかな?」
 ものすごく甘いマスクメロンの類ではなく、わが家で作っているのは、昔のマクワウリ系か、プリンスメロン系のウリ類である。私などは、甘すぎないこれらのウリ類が好きだ。冷やしておいて、水分補給をかねて、この季節、よく食べる。しかし、西瓜の甘さを知った動物(タヌキかハクビシンかは不明)は、ウリ類をかじってみて、「なんだ、こんなもの」と「学習した」のかもしれない。
 以後、ウリ類は熟すまで畑に置けるようになったのだそうだ。
 ちなみに、このネットは、クリを入れて販売するためのネットである。これは、やはり定年退職後、同じ旧大原町に移住して、家庭菜園をやっているIさんに、父親が教えてもらって、ホームセンターから買ってきた。
 海岸に近いIさんの畑では、トウモロコシにこのネットをかけて、動物から守っているという。西瓜はカラスにやられることが多く、カラスよけには「見えないようにするのが一番」とかで、熟しはじめたら、紙で西瓜を覆ってしまう、と言っていた。
 動物の種類によって、防衛策もまた、いろいろである。

パッションフルーツ
 昨年の夏、単身赴任宅のある愛知県稲沢市のホームセンターで、パッションフルーツの鉢植えを見つけた。すでに実をつけているのもあったが、まだ「苗」という程度の、安価なやつを買って、茎が折れないように、小さな段ボール箱に入れ、新幹線でも足元に置いて、なんとかいすみ市の家に持ち帰った。
 冬は、屋内に置き、晩春を待って庭に出した。
 6月に、1個、実ったのがわかった。7月に撮った写真では、大きさは十分に育ったものの、まだ表面が緑色だった。

実ったパッションフルーツ
 8月下旬に帰ったら、収穫されていた。「自然に落ちた」と、かみさんは言う。外皮は紫色の入った茶色で、中は、こんな具合だった。

切ってみたパッションフルーツ
 タネがゼリーに覆われていて、とても甘い。果肉がほとんどなくて、これはもっぱらジュースにする果物だが、私はもっと酸味があると記憶していた。が今回、感じたのは甘さだけだった。来年は、もっとたくさん実らせたいが、もともと南米の亜熱帯地方の植物である。ちゃんとした温室を作ってやらないと、この大きさでは冬が越せないかもしれない。
 でも、なんとか、来年も育てたい。と言うのは、花を見たいからでもある。
 調べたら、パッションフルーツは、トケイソウ科の植物だった。日本名は「クダモノトケイソウ」というのだそうだ。
 それなら、花を見たい、と思ったのである。時計のように見えるから「トケイソウ」。園芸品種がいくつかあって、なかなか美しい花だ。
 というわけで、来年の夏をお楽しみに。

ハクチョウゲ
 庭の隅に、こんな花が咲いている。いつの間にか株が大きくなって、夏の初めから10月に入るまで、次から次へと白い花を咲かせる。

大きな株になったハクチョウゲ
 植えたかみさんに名前をきいたら、「ハクチョウゲ」と言うので、私は「白鳥花」だと、ずっと思っていた。「沈丁花」(ジンチョウゲ)のように、「花」を「ゲ」と読む読み方はあるから、「ハクチョウ」は「白鳥」、それに「花」だと思い込んだのである。
 しかし、「どこが白鳥なんだ」と尋ねたら、「鳥の白鳥じゃないの」と言う。
 「ほら、花のひとつをよく見ると、チョウチョみたいでしょ。白いチョウチョだから、白蝶花」

蝶が羽を広げたようなハクチョウゲの花
 ところが、インターネットで「ハクチョウゲ」、または「白蝶花」を検索しても、この花のことは出て来ない。出て来るのは、「宮木あや子著 白蝶花(ハクチョウバナ)」という小説のことばかり。読んだこともないし、恋愛小説は読む気もないが、単行本の表紙には、確かに、この花が描かれていた。
 ふと思いついて、「白蝶草」で検索したら、今度は出て来た。北アメリカ原産のアカバナ科の植物で、一般名は「ガウラ」というのだそうだ。別名が「ハクチョウソウ」。説明されれば、わかりやすい命名だ。
 この花、乾燥にも強く、とても丈夫で、花期が長い。美しさもさることながら、手間のかからないのがありがたい園芸植物でもある
(2008年9月10日)



尾張のお月見

丸くない団子
 ミートソースを作るための食材を探しに、ちょっと離れたショッピングセンターへ出かけたら、地元の和菓子屋さんが、出店で「月見団子」を売っていた。そういえば前夜は、美しい月が出ていた。
 「そうか、中秋の名月か」
 旧暦8月15日の満月である。今年はそれが、9月14日だった。
 が、その団子が、丸くないのである。

尾張地方独特の形をした月見団子
 「どうして、こんな形なの?」
 尋ねると、「えっ」と、一瞬、驚いた顔をしたが、「ああ、岐阜の方の団子はまん丸ですね。でも、尾張では昔から、月見団子はこの形なんですよ」という返事だった。
 私の単身赴任宅は、愛知県稲沢市にある。名古屋市の隣で、私は毎日、名鉄国府宮駅から特急電車なら10分で名古屋駅まで通勤している。出店は、稲沢市の「山虎屋菓子舗」の臨時店舗だった。そして、「これは、里芋の形なんです」と解説してくれた。
 中秋の名月は、別名「芋名月」。この月見には、秋の実りのひとつである里芋を供える風習が全国にある。団子は通常、芋とは別に供えるものだが、団子を芋の形にしているのが、由来はわからないけれど、なんとも言えず面白い。茶色の団子は、黒糖を混ぜ込んだそうで、団子にはどれも、ほのかな甘みがついていた。
 14日は日曜で、翌日は敬老の日だった。その日、私は、この春に秋田から名古屋へ移り住んだ友人を訪ねることになっていた。中京大学大学院で、刑法を教えているSさんである。1か月ほど前に、「秋田から届いた『あきたこまち』を10キロやるから、来てくれよ」と言われていたのだった。
 訪ねるのは夕方だった。午前中に、近くのスーパーにあるクリーニング店に行った際、すぐ隣に、老舗の和菓子屋があるのを思い出した。
 「そうだ、彼も、あんな形の月見団子なんて、知らないだろう。見せて、びっくりさせよう」と思いついて、菓子屋へ行った。
 ところが、店内を探しても、それが見つからない。しかたなく、「すみません、月見団子はありませんか」ときいたら、店員が困ったような顔をして……
 「お客様、お月見は昨夜だったものですから、きょうは団子を作りませんでした」
 バカだねぇ、私も。翌日は「十六夜」(いざよい)。「十五夜の団子」があるわけないじゃないか。真夏が旬のはずのトマトを1年中売っているのとは、わけが違うんだよ。
 そして以前、そことは別のスーパーで1年中、柏餅を売っているのに驚いたのを思い出し、「月見団子は、その日にしか作りません」という和菓子屋に、うれしくもなった。

宝物の本
 房総半島、千葉県いすみ市の家の庭に、「ヤブラン」が咲いていた。あまり陽のささない花壇の片隅だが、「ヤブラン」にはこういう場所がいい。

ひっそりと咲くヤブラン
 かみさんは、別の場所にも「ヤブラン」を植えていて、そちらは葉に白い筋模様が入っている。それは園芸品種だが、ユリ科の植物「ヤブラン」はもともと、山野草である。ヤブの中に咲くランのような花、というのが名の由来なのだろう。その花を見ていたら、私が「宝物」にしている本を紹介したくなった。
 北隆館発行の『牧野 新日本植物圖鑑』である。

分厚い『牧野 新日本植物圖鑑』
 日本の植物学の先駆者、牧野富太郎が1種ずつ、採集した植物を描いた、分厚くて大きな本だ。初版は昭和36年6月。私の持っているのは、昭和38年6月に出た「八版」で、奥付には「頒布番号15568」と、青色のスタンプが押されている。
 私は小学校4年生から5年生にかけては、「将来、天文学者になりたい」と思い、晴れていれば毎晩、星を見ていた。ところが5年生の夏休み、福島市が開いた科学教室で植物採集を教わってからは、「将来は、植物学者になる」と簡単に方針変更し、やたらと野山を歩き回って植物標本を作った。そのうち、子供用の図鑑ではなく、本屋でみつけた『牧野 新日本植物圖鑑』が欲しくなった。
 けれど、この本、4000円もした。当時の4000円は、大人にとってもかなりの金額だったと思う。子供が簡単に買える本ではない。そのころ、父親は「欲しいものがあったら、半分貯金しろ。そしたら買ってやる」と言っていた。それで、小遣いとか、お年玉をせっせと貯めて、やっと6年生の終わりごろ、この本を手に入れたのである。
 久しぶりに「ヤブラン」が載っているページを開いたら、左側に「ヤブラン」があって、右側のページには「ヒメヤブラン」があった。「ヤブラン」よりひとまわり小さいので、こう呼ばれる。大型の「ヤブラン」はなかなかみつからないが、「ヒメヤブラン」は、ちょっと山に入ればどこにでもある植物だ。そして、その絵の葉は緑色だった。この図鑑は、モノクロなのだが、当時、私は、気に入った植物には色鉛筆で彩色していたのである。

色鉛筆で緑色に塗った「ヒメヤブラン」の絵
 この「房総半島スローフード日記」で、よく私は雑草を話題にする。いわゆる「雑草」にはイネ科の植物が多くて、エノコログサ(ネコジャラシ)を知っている人は多いと思うけれど、オヒシバ、メヒシバ、キツネガヤ、ニワホコリなどという名前が、ヒョイヒョイと出て来るのは、あのころ、植物採集に夢中になったおかげである。
 そして、子供のころに覚えたことは、いつまでも忘れないものだなぁ、と、われながら驚いている。

夏の終わりのコガネグモ
 春から秋まで、わが家の周囲ではいろいろなチョウチョが飛んでいる。中でも夏は、アゲハチョウの類が目につく。キアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、オアスジアゲハ……どれも美しいチョウチョだ。
 9月の初め、家の前の花壇でアオスジアゲハを見かけて、暫くして裏の花壇に行ったら、椿の木に網を張ったコガネグモに、アオスジアゲハがつかまっていた。

アオスジアゲハをつかまえたコガネグモ
 腹に黒と黄色の縞模様のあるコガネグモは、クモ類では大きな方だ。ジョロウグモに似ているが、コガネグモの腹は円形に近いので区別がつく。これが、まあ、わが家の周囲ではよく見かける。けれど、クモは、人間を不愉快にさせる小さな虫を捕ってくれるので、歩くのにじゃまな所にでも網を張っていなければ、そのままにしている。
 美しいチョウチョがつかまってかわいそうだ、と思う人がいるかもしれないが、私は「これも自然のいとなみ」と割り切っている。この大きなクモは、メスで、産卵の近いこの時期には、しっかりエサを食べなければいけない。
 そして、ひんやりとした秋風の吹くいまごろは、たぶん、このクモは卵を産み終えて、もう、死んでいるに違いない。たった1年の命もまた、自然の摂理なのだから。
(2008年9月27日)


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