宮城県

とよままちれきししりょうかん
登米町歴史資料館
東北おもしろ博物館(加藤貞仁著)より
 おもしろ博物館宮城県登米町 
今は教育資料館になっている、旧登米尋常高等小学校の校舎。木造校舎が「コの字」型に配置されている
●開館時間=午前9時〜午後4時30分
●休館日=年末年始
●入館料=5施設共通券で一般800円、高校生600円、小・中学生400円
●交通=JR東北新幹線古川駅からバス70分、JR気仙沼線柳津駅からバス15分


登米町内5施設
問い合わせ
とよま振興公社 0220・52・5566
登米町観光物産協会 0220・52・4649
 宮城県北部の穀倉地帯をゆったりと流れる北上川の右岸に、古い城下町、登米(とよま)がある。伊達政宗の一門である登米伊達家、二万一千石の本拠地である。そして、北上川の水運で栄えた町でもある。
 江戸時代には地域の中心地だった町が、その後の近代化の波に乗り遅れて衰微した例は珍しくない。この町もそうだ。だがそれが逆に幸いし、今、登米は明治時代の洋風建築や、それ以前の武家屋敷を探訪する歴史スポットとして注目が集まっている。キャッチフレーズは「みやぎの明治村」。その象徴は「教育資料館」だ。
 北上川に架かる登米大橋からまっすぐに延びる道路を、車で二分。「教育資料館」は、町の中心部にある。ここで待ち合わせた観光ガイドの新田耕也さんに、「観覧料の必要な施設が五か所あるので、共通券が得ですよ」と勧められ、まず「一般八百円」の共通券を購入した。
 この建物は明治二十一年(一八八八)に落成した、旧登米高等尋常小学校で、国の重要文化財にも指定されている。中庭を囲むように、木造二階建て校舎が「コの字」型に配置され、中央に二階がバルコニーになった正面玄関がデンと張り出している。ここだけ白いペンキ塗りなのが、ハイカラだ。
 よく見ると、正面玄関の四隅の柱の最上部には、渦巻き模様が彫られている。ギリシャの神殿をモデルにした、イオニア式の柱頭飾りだ。
 明治十年から二十年にかけて、山形県鶴岡市の「旧西田川郡役所」や、福島県田島町の「旧南会津郡役所」など、「擬洋風」と呼ばれる和洋折衷の建築物が東日本を中心に流行した。だが、柱頭飾りなどはたいていでたらめだった。日本の大工が、それらしく見せようとしただけだったからだ。ところがこの旧登米高等尋常小学校正面玄関の柱は非常に正確なイオニア式で、日本の近代建築史上、特筆されるべき建物なのだそうだ。
 それもそのはず。後に宮城県建築技師になった設計者の山添喜三郎は、明治六年、ウィーン万博の日本館建設に参加し、その際、本物のヨーロッパ建築を見て来た人だからだ。
 教育資料館から歩いて十分ほどの警察資料館(明治二十二年落成の旧登米警察署)も、設計は山添。こちらは全体が白いペンキ塗りだが、正面玄関はほとんど同じ造りだ。
 教育資料館の二階には、大正時代の授業風景を再現した教室や尋常小学校の看板などがあり、一階の資料室には、明治初期からの教科書が保存されている。「私も、この小学校に通ったんですよ」と言う新田さんの案内で校舎のどこを歩いても、不思議に懐かしい気分にさせられる。ふと、窓ガラスの多くが、向こうがゆがんで見える年代物なのに気づいた。この町の人々は、古いものを本当に大切にして来たのだ。
中庭を囲む回廊。この回廊も明治の洋風建築の特徴の一つだ
大正時代の授業風景を再現した教室。教材として置いてある算盤は、懐かしい五つ玉だ
明治29年の高等小学校読本。1階の資料室には、こうした教育資料が、多数保存されている
正面玄関の四隅の柱の最上部には、明治の擬洋風建築としては珍しく、非常に正確なイオニア式の柱頭飾りが施されている 旧水沢県庁舎。外観は日本建築だが、内部には、明治22年ごろに使われた法廷など、洋式の部屋もある やはり擬洋風建築として保存されている「警察資料館」(旧登米警察署)。この柱頭飾りも正確なイオニア式だ
 「教育資料館」を見たら、町の中を歩きたくなった。次に行った「水沢県庁記念館」も明治の建物だ。
 宮城県北部の登米(とめ)郡は、明治九年に宮城県となるまで、現在の岩手県南部と統廃合が繰り返された。明治四年に建設が始まった時は登米県庁になるはずだったのが、翌年完成した時は水沢県庁の看板を掲げたという、廃藩置県後の慌ただしい歴史を刻んだ建物だ。
 県庁記念館の外観は日本建築である。しかし内部には、明治二十二年ごろ「石巻治安裁判所登米出張所」として使われた当時の洋風の法廷が再現されていた。ところが当時、この部屋の正式名称は「人民調所」だったという。現代の我々からすれば許しがたい呼称だが、これも明治という時代なのだろうか。
 町の通りを歩いていると、蔵造りの商家があったり、私設の資料館があったりする。タイムトラベルでもしたような、不思議な町だった。
平武家屋敷通り。屋敷の中に、お茶を飲んで休むことができる「春蘭亭」がある

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