宮城県

東北陶磁文化館
東北おもしろ博物館(加藤貞仁著)より
 おもしろ博物館宮城県中新田町 
温もりが感じられる東北地方の焼き物を集めた1階展示室
●開館時間=午前10時〜午後4時30分
●休館日=月曜日、祝日の翌日(土、日曜は除く)、12月28日〜1月4日
●入館料=一般310円、 歳以上と高校・大学生210円、小・中学生150円
●交通=JR東北新幹線古川駅からバス26分。中新田西町下車


中新田町町裏64
問い合わせ= 0229・63・3577
 福島県・会津地方の郷土料理に、「ニシンの山椒漬け」がある。身欠きニシンと山椒の葉を交互に重ね、醤油と酢で漬け込むものだ。山椒の香りとニシンのうまみが溶け合い、いかにも山里らしい味わいの料理である。
 この漬け物には、専用の容器がある。会津本郷焼の「ニシン鉢」である。厚手の四角い容器で、身欠きニシンがすっぽり納まる大きさだ。会津の古い家にはたいていあって、見慣れていた私には今まで、「実用品」という認識しかなかった。
 ところが「東北陶磁文化館」で、ガラス越しにニシン鉢を見て、ある種の衝撃を受けた。その武骨な焼き物に、おおらかな温かさが漂っていたからだ。
 江戸時代末まで、東北各県に多くの窯場があり、かなりの量の焼き物が生産されていた。明治になり、藩の御用窯は庇護を失い、民窯は中部以西の大産地から良質で安価な焼き物が流入したために衰えた。今も伝統を引き継ぐ窯場は、数か所にすぎない。「東北陶磁文化館」は、そんな東北地方の近世陶磁器を集めた博物館だ。
 展示されているのは、ほとんどが生活雑器だ。中には、尿瓶まである。おそらく、ある種の茶器や骨董のように法外な値の付く物は、ここには見当たらないだろう。だが、こうして一堂に会した焼き物を見ていると、大きな水甕にも、小さな皿にも、庶民の手の温もりのようなものを感じる。
 そこに美を見いだしたのは、民芸運動の提唱者、柳宗悦だった。彼が昭和十八年にまとめた『手仕事の日本』(岩波文庫)には相馬駒焼(相馬市)、相馬大堀焼(福島県浪江町)、成島窯(米沢市)、平清水窯(山形市)、久慈窯(久慈市)などが紹介されている。
 この博物館は、考古学者の芹沢長介氏(東北大学名誉教授)から、一千点余の近世陶磁器コレクションを寄贈された中新田町が開設した。東北の古い窯跡の発掘も手がけた芹沢氏の審美眼が、各地で埃に埋もれていた逸品を探し出したのだろう。しかしそれが単に民芸運動の延長でなかったことは、会津本郷焼の「文明開化の摺絵桜花文皿」を見て納得できた。
ずらりと並んだ大甕。堤焼(宮城県)、楢岡焼(秋田県)などの大作だ
会津本郷焼の「文明開化の摺絵桜花文皿」。新しい時代のデザインを創造しようとした意気込みがうかがえる
ニシンの山椒漬けを作るための独特の器、「ニシン鉢」 珍妙な形をしているが、実は尿瓶(楢岡焼) 各地の急須。東北には茶道に用いられる茶器はきわめて少ない
 明治初期に輸入されたコバルトの、あざやかな青で絵つけされた皿である。同心円状に桜の花が四重に描かれている。が、これは手描きではなく、型紙を用いて摺りこまれた絵柄だ。柳宗悦はこれを「商業主義に毒された俗悪な産物」と、酷評したそうだ。これに対し、芹沢氏は「稚拙なところが愛らしく、捨てがたい」と解説している。
 私には、とてもモダンなデザインに思われた。東北地方の焼き物が、概して重々しく、地味な色合いである中にあって、文明開化という華やかな時代の焼き物を創造しようとした陶工たちの意気込みが感じられた。
 そういう目で見直すと、それぞれの時代に、新しい工夫の跡があったこともわかる。
 特にユニークなのは、宮城県宮崎町に窯のあった切込焼の三彩だろう。青と茄子紺、それに白の三色の釉薬を流しかけた磁器だ。ただし青が、とてつもなく明るく、一見してケバケバしい印象さえ与えかねない。切込焼は、伊達藩への献上品は有田焼の忠実な模倣が多かったという。確かに、有田と見紛う製品も数多い。その一方で陶工たちは、庶民や一部の有力商人の求めにも応じて、独自の工夫を凝らしていたのである。
 弘前市に窯のあった悪戸焼も独特だ。線描きの文様が盛り上がっているのである。筆で絵つけするのではなく、細い筒から、少し粘性のある釉薬を流し出して文様を描いたのだ。
 芹沢氏の研究によると、東北の陶磁器には茶器がきわめて少ないのが特徴だという。骨董の世界で、東北の陶磁器が重視されないのは、そんな理由もあるのだろう。だが、美術品とは無縁の日常生活の中に、東北独自の焼き物文化が息づいていたのは、うれしい発見だった。
独特な線描の悪戸焼「筒描梅文油壺」。白い釉薬を盛り上げるようにして文様を描く
非常にユニークな色合いの切込焼「三彩桔梗皿」
平成12年に移転し再オープンした「東北陶磁文化館」

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