歴史・民俗
2015年刊

松栄丸「広東」漂流物語しょうえいまるかんとんひょうりゅうものがたり
近世奥羽人の遭難と異文化体験の記録
小林 郁(こばやし かおる)
46判・366頁 定価2200円+税
ISBN 978-4-89544-593-1

1788年(天明8)、北海道松前を出帆した「松栄丸」は遭難、翌年、中国南部広東省に漂着した。水手の利三郎らはその後、浙江省へ護送され、1790年(寛政2)、帰国した。期せずして高名な大黒屋光太夫のロシア漂流と同時期に起きた大陸漂流だったが、聡明で博学であったために注目を集めた光太夫らとは逆に、読み書きもできなかった平凡な庶民である利三郎らの漂流前後の数奇な生涯を追う歴史ドキュメント!
冊数

序 旅人と渡し守
大黒屋光太夫の期間
広がる噂話
菅江真澄、漂流民と出会う

第一章 湖国の商人
琵琶湖のほとり
両浜商人
浜屋のあゆみ 
大宮神社
場所請負人
枝ヶ崎の風景

第二章 松栄丸の乗組員
十五人の名前、出身地など
盛岡領の人々
弘前領の佐之助と与三郎
能代の長松と、同じ町内の漂流民
塩越の吉太郎一景勝の地と蝦夷のかかわり
庄内加茂の権吉と長五郎
特異な経歴の持ち主、松前の伊兵衛
越後の与次郎

第三章 どんな漂流記が伝えられているのか
長崎奉行所での口書
『長崎志続編』の松栄丸関連記事
船頭善吉の漂流記
長松の漂流記
吉太郎の漂流記
権吉と長五郎の漂流記
与次郎(?)の漂流記

第四章 船出
古川古松軒の見た松前
賑わう港
弁才舟松栄丸
船乗りの持ち物
蝦夷地への航海
庶民のアイヌ観
江戸へ

第五章 半年間の漂流(一)
夜間航海
八戸沖の遭難─帆柱が折れる
荷打ち、たらし、そして仮帆づくり
天明八年十一月上旬の天候
二度目の嵐
冬の西風と近代の遭難
漂流した時の対策─ある知識人の意見
遭難時の信仰

第六章 半年間の漂流(二)
船磁石を使う
咽の渇きに苦しむ
海水にまつわる当時の俗説について
恵みの雨

「日の下」の世界
筏同様の船に
善吉と海の生き物
吉太郎の信仰
食事の制限
松栄丸がたどった海の道
海魔あらわる
島々を望見する

第七章 思いがけない来訪者
鳩と燕
「海賊」との遭遇
さまざまな海賊
長松の語る意外な顛末

第八章 漂流地での出来事
中国までの漂流日数
着岸
地元の官民との接触
上陸
伊兵衛の活躍
海辺の関帝廟
中国の旅の始まり
コラム1みちのくの広東漁船

第九章 広東省にて
潮州府と漂流船
最初の上陸地はどこか
恵来県の風景
「長屋」での暮らし
知県による取調べ
恵来県から広州府への旅
旅行経路を考える─伊勢田丸の漂流記から
「韓唐」のこと
広州での生活
コラム2大黒屋光太夫と中国

第十章 広州から乍浦への旅
広州の賑わい
不安といらだち
与三郎の死
送還経路の変化
旅のみちすじ
大旅行と、わずかな記録

第十一章 船便を待ちながら
龍官と福官
「朝鮮か琉球へ」
銭氏十二家と日本商問屋
乍浦の町と人
乍浦の風景
安らかな日々
長崎の唐人屋敷のはなし
年越しの宴と庄内節
佐之助と惣右衛門の死
乍浦に眠る日本人漂流民
顧寧遠と両局会館の文書
コラム3中国見聞記
人々の習俗
食事の作法、食器
料理の味わい
建物
ことば
さまざまなこと
利生譚

第十二章 長崎
吉報
別離と壁の落書き
乗船
程赤白のこと
長崎への航海
長崎奉行の取調べ
桜町牢での生活
王兆龍のその後
浦上一番崩れ

第十三章 ふるさとへ帰る
各藩への知らせと身元調査
請取人たちの長崎行
漂流人引き渡し
故郷への旅路
コラム4 吉太郎の故郷に漂着した中国船

終章 帰郷後の人生
「公儀御大法」
一人扶持の支給
船頭善吉─六年後に死亡
喜右衛門─慎ましく生きる
清蔵と忠右衛門─布施家の兄弟のその後
利三郎─ふね流したるつみ
長松─『伊頭園茶話』の死亡記事
権吉と長五郎─「めでたく往生いたし候」
与次郎─禁を破って再び海へ?
吉太郎─「仁賀保八十八ヶ所霊場」をひらく

あとがき

小林 郁(かおる)
昭和39年(1964年)生まれ。大正大学仏教学部卒。
近世から近代初期の漂流・漂着事件について、文献収集とフィールドワークを続けている。

著書:『嘉永無人島漂流記 長州藤曲村廻船遭難事件の研究』(三一書房、1998)、『鳥島漂着物語 18世紀庶民の無人島体験』(成山堂書店、2003)
論文:「伊勢松坂船のアリューシャン列島漂流事件─『漂流著信記』とその関連史料─」(『海事史研究』第61号、2004)、「中国船金源盛の銚子漂着と北茨城市平潟町の中国人墓について」(『海事史研究』第62号、2005)、ほか

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