加藤富夫
[2024/04/25,09:45:31]
4月に入って「憑かれたように」高校時代の担任だった加藤富夫先生の遺した小説を読み漁っている。若くして事故死した先生には生前1冊の著作しかない。死後、秋田書房から2巻本の「作品集」が刊行されているが、これらを合わせても、9本の作品が今も読むことが可能な作品だ。10年間という短い創作期間に発表された先生の作品は18本。そのほとんどが「文學界」と「早稲田文学」に掲載されている。その雑誌のバックナンバーにはまだ手を出していないが、新人賞受賞作や4回の芥川賞候補作は読了した9編にすべて入っている。予科練の生き残りであり、戦後の瓦礫の風景のなかで、現代の不安と恐怖を、土俗的視座から描き続け、将来を嘱望された作家は、もっと評価されてもいい。これは私の単なる身びいきだろうか。血族や鎮魂といったテーマの重苦しさを嫌う向きもあるだろうが、加藤文学の底に流れている「喜劇性」は、秋田大学時代に所属していた演劇サークルの活動の中ではぐくまれたもののようだ。図書館に通って未読の9編を読み通してみたいと思っている。
|