サーガ
[2025/07/03,10:27:54]
奥田英朗の『普天を我が手に』(第一部)を「いやいや」読了。「いやいや」というのは、もっとネチネチと、長く奥田ワールドを楽しみたかったのだが、勢いのある筆致と畳みかけてくるドラマの展開に、21行組み600ページの長編を、あっという間の3日間で読み終えてしまった。これはまずい。続編の第2部刊行予定は9月、それまでお預けなのだ。戦争、侠客、革命、音楽……それぞれの才を持った4人の昭和元年生まれの寵児たちが、交錯しながら昭和を歩く長編小説だ。一部はその4人の主人公たちの親たちの物語だ。大正天皇崩御から太平洋戦争前夜までが描かれている。4人の親たちの中では、若きエリート軍人・竹田耕三の生き方が強く印象に残った。奥田自らが「一生に一度の10年仕事」と語る新作長編だが、宣伝文句には「昭和史サーガ3部作」の文字が躍る。サーガというのは、ある一族、一門を歴史的に描いた大河小説、という意味なのだろうが、今はもう早く続編が読みたい、という気持ちでいっぱいだ。よくしたもので、同時期に新刊の出た沢木耕太郎『歴のしずく』で、この空白を埋め合わせるしかない。こちらも600ページの長編で、眠る時間が惜しくなりそうな予感はあるのだが。
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